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シューベルト:交響曲第8番(第9番、第7番)ハ長調D.944
このハ長調の「大交響曲」は、かつては第9番とも、あるいは第7番とも呼ばれたが、国際シューベルト協会編の「作品目録改訂版」では新たに第8番とされた。その根拠についてここには述べるスペースがないが、ともあれ、現在までに確認されているシューベルト(1797−1828)の交響曲計8曲のうちの、一番最後に成立した曲であることは間違いない。今後何か新しい発見があれば別だが、そうでない限り、従って第8番とするのが妥当ではないだろうか。
ところで最近の研究では、かつて幻の曲とされた通称「グムンデン=ガシュタイン交響曲」が、実はこのハ長調交響曲の前身ではないかという説が浮上しつつある。とすれば、シューベルト28歳の1825年に曲はいったん完成され、死の年1828年に改訂されたことになる。また「グムンデン」前身説が誤りであれば、着手は最後の年の3月になってからである。いずれにせよシューベルトの残り時間はもう尽きかけていた。彼は結局、この力作を実際に聴くこともできぬまま、31年の短い生涯を閉じるのである。
スコアは、多くの遺稿とともに兄フェルディナントの手に渡り、そのまま長く眠っていた1839年の元旦、フェルディナントを訪問したシューマンがその草稿を「発見」する。こうして「大交響曲」は、シューベルトの死後11年を経た1839年3月21日、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスの演奏会で、メンデルスゾーンの指揮により初演される運びとなったのである。あの夢のような美しい「未完成」にくらべると、ハ長調交響曲の場合、べ一トーヴェンを追跡しようとするシューベルトの意志の痕跡が、いくらか余計に残っているようにも。思われる。しかしそれでも、彼本来の個性はしょせん隠しようもない。息長く歌われてゆくメロディの叙情性、デリケートな転調の醸し出す光と影、形式に縛られない表現の大いなる自由、いつ果てるとも知れの歌の中から浮かぴ上がる日く言い難い独特の味わい…。曲いっぱいに広がる魅力のどれ一つをとってみても、まぎれもなくシューベルト独自の世界である。曲はアンダンテの長大な導入部とアルグロ・マ・ノン・トロッポの主部から成る第I楽章に始まる。冒頭ホルンによって奏でられる美しい楽想は、さながらこの交響曲の性格と気分を象徴するかのようである。第2楽章はアンダンテ・コン・モートの、歌の人シューベルトならではの素晴らしい緩徐楽章。続くアレグロ・ヴィヴァーチェは、弦と管のかけ合いに始まる特徴的な主部と、のびのびした気分のトリオ(中間部)からなるスケルツォである。
そして最後に、実に1000小節をはるかに超える悠久のフィナールがくる。力強く、堂々と始まるが、やがてシューベルトは、果てしなく続く美しいメロディの流れに身を任せてしまう。(おおきまさずみ音楽評論)

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